書評:「古事記ーまんがで読破ー」を読んでわかったこと

書評
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神話が好きで、ギリシア神話や北欧神話、エジプト神話など大好物なのですが、
日本の神話については大人になるまで知らなかった口の日本人です。

そんな中、先日見た「中田敦彦のYouTube大学」の古事記編が大変面白く。

【古事記①】日本の神話が面白い 〜日本の成り立ちを知っていますか?〜

興味が沸き、自分でも本を読んでみました。またマンガでわかるシリーズですが。

しかし、サクサク読めてしまうお手軽さにも拘わらず、
自分の知らない側面からの解説に触れられ、大変勉強になりました。

日本人として自国の神話に対する見解を語れるようになるべく、
書き留めたいと思います。

古事記とは何を伝えるための物語か

古事記とは、中国の文化が入ってくるより以前の、日本の土着神話をまとめた書物です。
奈良時代に編纂され、神代の時代~第33代推古天皇に至るまでの歴史を語っており、
上中下3巻から成ります。(ただし、ページのほとんどは上巻が占めるようですが。)

古文体で書かれ、且つ登場人物(登場神?)の名前が難解であり、
特に冒頭の神の名前ラッシュのパートで挫折しがちな本だと感じています。

しかし、この漫画では、「神話とは、人々に何かを伝えるための物語」であるとし、
神の名前やエピソードについて、何を示唆したものなのかを記載してくれています。
これが私(素人)納得の、非常にいい解釈だと感じたので、
以下に、「古事記が伝えたい3つのこと」という観点でまとめておきます。

①生命、技術の進化の様を伝える物語

「天地はじめて發けしとき、高天原に成れし神の名は、天之御中主神。」

で始まるこの書物は、序盤はひたすら神の名前が書き綴られます。

現代人の感覚からすると、なんとも意味不明で退屈に感じてしまうところですが、
実はこの天地開闢の神々の名前にはそれぞれ意味があり、
それらは、人類が如何に生まれ進化したかを語っているといいます。

【造化の三神】
天御中主神(あめのみなかぬし)
高御産巣日神(たかみむすび)
神産巣日神(かみむすび)
まず天地が分かれ、造化の三神が生まれ、
宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこち)
→ 善く萌え上がろうと立ち上がる力が、
天常立神(あめのとこたち)
→ 天に常に立ち昇ることで、様々な神々が生まれ、世界が形成された

【神代七代】
國之常立神
(くしのとこたち)
→ まず生命を育む大地、豊雲野神(とよくもぬかみ)
→豊かな土壌が生まれ、

宇比地邇神
(うひぢに)
→ 芽吹くもの、
須比智邇神(いもすひぢに)
→ 原生生物が生まれ、角杙神(つのぐひ)
→ 脊椎や
妹活杙神(いもいくぐひ)
→ 臓物が化成され、意富斗能地神(おほとのぢ)
→ 雄性・
妹大斗乃弁神(いもおほとのべ)
→ 雌性が分かれ、於母陀流神(おもだる)
→ 思いのままの肢体、
妹阿夜訶志古泥神(いもあやかしこね)
→ 知的機能が化成され、

伊耶那岐神(いざなぎ)
伊耶那美神(いざなみ)
そして最後に人類の祖先が誕生した

そう言われると、神々の名前から、生物が段々と哺乳類になっていく様が浮かびます。
さながら、奈良時代なりの「理科の教科書」の様にも思えます。
イザナギ・イザナミが特に有名なのは、「最初の人型の神」だからだと言えそうですね。

更にイザナギとイザナミは、三十五柱の神を生み出しますが、
それらは人類の技術の進化を表しているといいます。
例えば下記。

【家宅六神】
⇒家づくりの基礎を表す。
石土毘古神(いわつちびこのかみ) → 石や土。壁づくりに使う。
石巣比売神(いわすひめのかみ)    → 砂や石。土台に敷き詰めるのに使う。
大戸日別神(おおとひわけのかみ) → 大きな戸口。
天之吹男神(あめのふきおのかみ) → 天井に屋根を葺く。
屋毘古神(おおやびこのかみ)       → 大きな屋根。
風木津別之忍男神(かざもつわけのおしおのかみ) → 風害をしのぐ

その他に、最後に生まれた火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)は、
文字通り人類が火を扱う技術を身につけたことを示し、
カグツチが生まれたことでイザナミが死に、イザナギが怒りからカグチを殺害するシーンは、
人間社会に武力による殺傷が生まれたことを示唆するとしています。

神様の名前で人類史を語ってしまうとは、驚きの発想だと思います。

②人の心、信仰の在り方を伝える物語

前段の神の名前ラッシュは、天照大御神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする
三柱の主神が生まれるところでひと段落します。
そしてそこからの物語はエピソード性が増す一方、
人間の心の在り様などが描かれるようになります。
代表的なもの話を三つほど取り上げます。

(1)「天の岩屋戸」
自分のせいで従者が死んでしまったと嘆いたアマテラスが、
神としての責務を捨て、岩屋戸(洞窟)に引き籠ってしまう話です。
アマテラスを外に連れ出すため、外で楽し気な祭りを開催したところ、
それを覗くためにアマテラスが岩戸を開けさせる、というオチでした。この本では、そもそもアマテラスが自責の念から引き籠ってしまったことを、
日本人の過敏な精神性を表したもの、と説明しています。
また、そういった鬱を解消させるのは「笑い」と周囲の「協力」だと語っています。
(2)「八俣の大蛇(やまたのおろち)」
「オロチ」とは、「愚かな知」からきており、即ち人間の醜い姿を表すとしています。
8つの頭は、あれもこれもと考える愚かな迷いであり、
その迷いのまま行動した結果、更に彷徨い続ける様を描いたものです。
また、お話の中に出てくる酒は、その愚かな部分を最大限に引き出すアクセントとして使われているとしています。
(3)大国主命(おおくにぬしのみこと)の国譲り
因幡の白兎で有名なオオクニヌシは、出雲を制定した後、
使者を通じてアマテラスに国を譲り渡します。
何故、せっかく英雄として国を治めることとなったオオクニヌシに国を譲らせたのか。
それは、神々は自然そのものを表しており、その神に国を譲る姿を描くことで、
大いなる自然に逆らわず受け入れる、という考え方を示している、としています。

 

このように、人間の心の様、信仰の在り方がエピソードによって語られているというのです。
このあたりは、物語の役割として、現代人にも納得できるところではないでしょうか。

③天皇統治の正当性を示す物語

古事記の持つ役割の三つ目は、最も機能的で意図的なものになります。
即ち、当時(奈良時代)に世を統べていた天皇の正当性を示すためのもの、という観点です。

具体的には、前述した「大国主命の国譲り」というエピソードがそれを表しています。
オオクニヌシの国譲りの際、アマテラスから遣わされた瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が
中つ国(人間界)に降り立ち、出雲を統治することになる、
そしてその子孫は、後の初代天皇(神武天皇)になる、という点です。

即ち、天皇とは「神界から、人間界を統治するために遣わされた存在」であり、
人間と同化しながらも最も神に近い存在なので、人の上に立つのは当然のことなのだ、
ということです。
即ち、天皇の統治の歴史を「天孫降臨」で説明しているのです。

西欧では、王政の妥当性を説明する「王権神授説」が近いものになるかと思います。
「王権を授かった人間」ではなく、「神の子孫」だというのは異なる点ですが。

終わりに

ということでまとめると、
古事記とは、「奈良時代の教科書であり、人間心理学書であり、宗教の教本である」と言えます。
実際に明治時代には教科書として取り上げられていたようなので、
その観点で内容を整理してみると、日本人の教科書という点でなるほどと納得させられました。
より原典に近いものも、いつか読んでみたいものです。

なお、この本では触れられていませんが、
「なぜ日本人は自国の神話を知らないのか?」という疑問については、
先に挙げた中田敦彦のYouTube大学で解説があるので、そちらもお勧めです。
様々な視点や思想が絡みあう、歴史というのは実に面白いものですね。

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