結局、ナナマルサンバツとはどんな物語だったのか

書評
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2020年11月4日、遂にナナマルサンバツの最終巻が発売されてしまいました。

1巻から全て発売日に買ってきた自分にとっては余りにも残念でならず、
暫く「ナナサンロス」の状態が続き、今に至る次第です。

最高に面白い漫画でした。その魅力は一言では語り尽くせない。
一言では尽くせないのですが、可能な限り短い文にまとめることで、
この作品を通して得た感動を振り返りたいと思います。

競技クイズという奥深さ

ナナマルサンバツは唯一無二の存在で有り続けました。
それができた理由の一つには、題材の特異性が真っ先に挙げられます。

この漫画では、競技クイズの奥深さが徹底的に掘り下げられます。
「競技クイズ」という言葉は一般に浸透しているとは言い難いですし、
そもそも競技クイズどころか、クイズを題材にした漫画自体が希有です。
しかも長期にわたり連載が続き受け容れられ続けた漫画など、一例もなかったでしょう。

「クイズ漫画」を想像する時どのような展開を想像するでしょう。
自分には「難しい問題に答える」くらいしか浮かびませんでしたが、
作中では、数え切れないほどの技巧や工夫に溢れています。

・「確定ポイント」とは
・「問題のパラレル」とは
・クイズの種類毎の特性と攻略方は
・早押しの秘訣は
・吃音の聞き分け、リップリーディング
・問題形式の穴を突く裏技、ハメ技

などなど。
脳味噌と神経をフル回転させても、まだ全然足りないくらいの戦略性、
一文字を読むか読まれるかの激しい鬩ぎ合いに驚愕させられるのです。

更に、作問の重要さにスポットを当てた漫画も、この作品くらいではないでしょうか。
難易度調整や時事問題などの問題選択の苦労は言うに及ばず、
早押しを前提に問題を詠んだときに美しく聞こえるパラレル、など、
クイズの問題が如何に手間と労力をかけ、芸術的に仕上げられているかが伝わってくるのです。

越山くんにとってクイズは・・・
単なる文章でも情報でもない
「作品」なんだ

コミックス14巻のこの一節こそが、作問者への愛と賛辞の集大成だと思います。

「問題に答える」というシンプルさに隠れた、余りにも奥の深い知力戦。
それこそがナナマルサンバツの最大の特徴と言えるでしょう。

クイズを通して繋がる世界

クイズの奥深さだけではなく、クイズによって得られる知識が現実世界とリンクすること
その感動を描いている作品でもあります。
コミックス7巻に描かれる一話は、正にそれを伝えるための話でした。

「問題
夏の大三角を更生する3つの星といえば、
はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイルと、こと座の何?
「あれがデネブアルタイルベガ
 君は指さす夏の大三角
 覚えて空を見る
 やっと見つけた織姫様
 だけどどこだろう彦星様
 これじゃひとりぼっち」
(supercell「君の知らない物語」)

カラオケで歌われた曲、建物、帰り道のエレベータ-、自転車。
自分の生活の至る所にクイズが転がっていることに気づいたときのワンシーンです。

後に、作問の妙は「自分とみんなの世界がつながった瞬間」と表現されますが、
日常での発見は、「自分がクイズで世界につながった瞬間」ではないでしょうか。
その驚きと興奮が余すところなく詰め込まれた、素晴らしいエピソードです。

良問とは、「どうでもいいこと」「つまらないこと」を問うものではなく、
人類の歴史における発見や偉業、感動、浪漫が詰め込まれたものだと思います。
知らないと???で終わってしまうことでも、その意味や重要性を知っていると、
つい他人に紹介したくなる、それがクイズの原点。
つまり、クイズを解けるようになることは、世界を知ることなのだと。

私が昔体験した、「これ、クイズででた-!」という感動を、
色鮮やかに描き切ってくれた点が、この作品から離れられない最大の理由だったと思います。

全員が全力を出し切る美しさ

そしてこの作品の魅力は、クイズのみに留まりません。
それは、スポ根少年漫画のような”アツさ”を持った青春群像劇であるという点です。

この作品の登場人物に、悪の心を持った人間や、人の心を失くした冷血鬼はいません。
人々を裏で牛耳る闇の組織もありませんし、プレーヤーを鼻で笑うような糞野郎もいません。
とにかく、主役から脇役、先輩後輩から大人まで含めて全員が全員、
真っ直ぐにクイズを愛し、努力し、全力でクイズにぶつかるのです。

現実では、全力を出せる環境なんてほとんどないように思います。
時間が、予算が、体力が、他にやることが、やっても「よくやるわ」と馬鹿にされる。
世の中は、一生懸命になれない人で溢れているのです。
そんな世界へのカウンターとも言うべきこの作品は、
余りにも眩しく、嫌みの無い輝きに満ちています。

僕たちのクイズは 1人では成立しません
ルールを考えて 問題を作る人がいて
出題者と 解答者がいる・・・
競い合うライバルと 助け合う仲間がいて
観てる人さえ巻き込んで ひとつになって問題を追いかける・・・!
そうやって みんなで作り上げる世界なんです

ここまで純粋無垢でキラキラした作品は、この令和の時代には非常に希少だと思います。
「あぁ、そういえば最近、こんなに物事に一生懸命になれてないな・・・」
「こんな一生懸命な青春を過ごしたかったな・・・」
この作品は、そんな風に自分を見つめ直させてくれます。

余韻

最終20巻では、長きに渡った全国大会編が遂に幕を閉じた後、
主人公のクイズ研究部の「その後」が2話に渡り描かれました。

6巻の「例会編」がそうであったように、
熱戦の最高潮で幕を引く、という選択肢もあったはずだと思います。
しかし、敢えて温度感の低い「日常に戻った話」を最後のエピソードに持ってきたことが、
私にはとても印象的でした。

思うに、先に挙げた「クイズは1人では成立しない」という考えをベースに、
「クイズを解くことが中心である大会編」で終わってしまうのは違う、
先輩である笹島が導いてくれた努力や苦労を辿るところまでを描いて、ようやく一周、
クイズに携わるための全ての姿を描いてこその、ナナマルサンバツという物語、
そのようなコンセプトで描かれた最終話だったように思います。

終わりに

ということで、ナナマルサンバツの振り返りでした。

最終話では温度感よりもコンセプトを優先した、というようなことを書きましたが、
それでも最終話もまたアツい締め方だったことは間違いありません。
もう続きがないのに、「その後」の設定が激熱すぎて勿体なさ過ぎるのです。
せめて、このままあと10巻・・・20年かかってもいいから描き続けてほしかった・・・

この作品からもらった感動を、どうか忘れないように生きていきたいと思います。

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