小説「探偵ガリレオ」を、近所のブックオフで280円で購入しました。
オリジナル版は1998年に刊行されていることを思えば、今なお300円弱もの値段が付いている事は賞賛されるべきことでしょう。
本作品を読んだ感想について、書き留めたいと思います。
なお以下には、読了を前提とし、根幹に関わるネタバレを含みますので、ご注意ください。
あらすじ・作品概要
「突然、頭が燃え上がる」
「文化祭に展示された、行方不明の男のデスマスク」
「謎の心臓麻痺」
「海水浴場に突如上がった火柱」
「幽体離脱した少年が証明するアリバイ」
天才物理学者・湯川学が、超常的な事件を物理的知見から解決するミステリー作品。
・「転写る」(うつる)
・「壊死る」(くさる)
・「爆ぜる」(はぜる)
・「離脱る」(ぬける)
その特徴は、非常に映像的であることです。
映像化される事を前提にしている様にも思えますし、ほぼ「脚本」といっても差し支えないような気さえします。TV番組化されること、それが人気を博す事は必然だったと思います。
探偵役・刑事役は全話共通ですが、それぞれの事件は独立しており、関連はありません。
難易度も決して高くありません。純粋に短編小説集として空いた時間に、大人から子供まで、楽しむ事が出来るでしょう。
ミステリとしてはイマイチ
まず先に、作品自体は面白かったと言う事を、予め述べておきます。
しかし正直、ミステリとしてはイマイチと言わざるを得ません。
その理由を2点挙げたいと思います。
ミステリにおいて最も大事な要素はと言えば、やはり「トリック」の品でしょう。
「なるほど!」「その手があったか!」「やられた!」こういった感情を求めて、人はミステリを読むのだと思います。
しかし、当作品においては、あまりその楽しみが前面に出てこないことかと思います。
何故なら、本作の肝である科学トリックが、大半の読み手にはないであろう知識を使ったものだからです。
例えば、「謎の心臓麻痺の原因はシリコンウエハーに穴を空ける超音波加工機!なんとハンドサイズ化されていて、家でもコンセントに刺して使用できるのだ!」と言われて、どういう気持ちになるでしょうか。おそらく、「ふーん?」くらいの感じではないでしょうか。
昨今流行の謎解きにおいては、小学生でも解けるものが評価されます。
それは難易度という意味ではなく、解法に視点変換や発想の飛躍が求められ、知恵の輪を解くような楽しみがあるものこそが皆が喜ぶ謎なのだ、ということです。
つまるところ、ディープな知識を使ったトリックは、読者に肝心要の科学知識がないことには、目明かしの楽しみを享受できないのです。
それはさながら、「小学生に高校受験の問題を解説したとき」の様な「だからどうした感」なのです。
ド文系の私には嵌まらないポイントでした。
次に、短編であるが故にと言うところが大きいとは思いますが、
盛り上がるところが非常に少ない、という点を挙げます。
まずなにより、この作品においては、「誰が犯人かを考えながら読む要素」がほぼありません。
イメージとしては、淡々と事件が起こり、粛々と捜査が始まり、いつの間にかさらりと解決してしまう感じです。
仰々しい犯人糾弾シーンや、犯人との舌戦といったものはほぼありません。
リアリティがある、と言えば聞こえは良いのですが、やはり物語において様式美は重要なのだなぁと思ってしまいます。
また、ストーリーの運び方も非常に地味です。
感情の起伏の描写、動機の掘り下げ、哲学的なテーマといったものもほぼありません。
何しろ、おっさん二人が、当たり障りのない会話しかしないのですから。気の利いたジョークの一つも言いやしません。正直、読んでて記憶に残らない程度のものです。
なお、後書き解説によると、作者のイメージでは湯川は佐野史郎だったようで。
勿論それ自体を否定するつもりは皆無なのですが、TV版で福山雅治・柴咲コウがキャスティングされたのには、制作側の「地味」さに対する対策の一環だったのかなと思ってしまいます。
さて、上記2点が合わさった結果、なんともシンプルなショート作品集に仕立て上げられました。
具体的には、各ストーリーはたった1行に要約できてしまいます。↓
超ネタバレ注意:
強いて言うならば、「離脱る」が最もミステリらしいお話だと感じました。
というのも、
・「幽体離脱の最中に見た情景がアリバイになる」という不可思議な事象にワクワクさせられる
・トリックも「蜃気楼」という、誰でも知っている現象を利用したもの
と、前述した残念要素2点を補って余り在るアイデアで彩られていたからです。
ただ、惜しむらくは、「メタ視点で見ると、幽体離脱が虚実では成り立たない。結果、目明かしで幽体離脱の正体が明かされても、イマイチ驚きがない」とい点と、「幽体離脱の謎を解くことなく、先に事件が解決してしまう」という点でしょうか。
やはり、ミステリとしては物足りなさが残りました。
ただし、同作者の他作品では、これまで述べたのとは逆に「爽快なトリック」「重厚な作品テーマ」「ドラマティックな展開」を体現した作品はいくらでも見受けられます。
例えば、別途レビュー記事を書いた「容疑者Xの献身」のトリックの根幹にあるのは、発想の転換やひらめきそのものです。
或いは、「手紙」という作品においては、哲学的で心を抉るような重厚なストーリーが展開され、涙なしには読めません。
よって、この「探偵ガリレオ」という作品は、あくまで作者が「今回は極力シンプルなものを目指そう」とした結果、意図的にこうなった作品なのであろうと思います。
「科学エンターテイメント」として見れば面白い
ではこの作品は面白くなかったのかと言われれば、前述したとおり、そんなことはありません。普通に面白い作品です。
そもそも、「ミステリ」だと思ってひねた視点で見るのがよくない。
これは、「科学ってこんなこともできるんだぜ!科学ってすげー!」を主とした作品と捉えるべきなのです。
そう、Dr.STONEと一緒なのです。
超絶科学知識を、石器時代のサバイバルのために使うのか、或いは殺人トリックに使うのか、そういう違いでしかない、同じ「科学の面白さを伝えるエンターテイメント作品」として捉えるべきなのです。
例えば、ガリレオでナトリウムが爆発したりするのは、Dr.STONEで言えばニトログリセリン付きの紙飛行機みたいなものです。どちらも、物語を彩る楽しい演出の一つなのです。
キャラクターが淡泊だと書きましたが、湯川のキャラをもっと濃くして、
などと言わせていれば、週刊少年ジャンプでやっても違和感なさそうなインパクトのある作品になり、現代でも通用したに違いありません。
90年代と言う時代におけるエンターテイメントの表現は「ミステリ小説」であり、2010年代なってそれは「少年漫画」でも表現されるまでに推移した、ということだと思っておけばよかろうもん。
ただまぁ、ガリレオの方は登場人物が大概クズなので、ジャンプでやるような爽快な作品にはならなかったでしょうけど。殺人のハードルが低すぎたり、自分の子供をマスコミへの売名に利用したり。
終わりに
というわけで、今更過ぎる「探偵ガリレオ」の感想でした。
つまり何が言いたかったかというと、「Dr.STONEって超面白いよね!これに勝る科学作品はない!かの東野圭吾でさえも例外ではないのだ!」、ということです。
コミックス派の私としては、南米編がどう帰結するのか、滅茶苦茶楽しみにしています。
コメント