2022年3月6日、今年のお笑いクラシックの先陣を切る、R-1グランプリ2022が開催されました。
M-1グランプリに比べてレベルが低いなどと揶揄されるようになってしまった本大会ですが、2020年大会ではマヂカルラブリー・野田クリスタルにブレイクの切っ掛けを与えるなど、やはりお笑い界における影響の大きさは顕在です。
昨年は見逃してしまったのですが、今年はばっちりリアタイ視聴しましたので、その感想を書き留めたいと思います。
決勝8名
kento fukaya
○三面の巨大フリップという、未だ嘗てない舞台装置を使用していた事。何が始まるのかと、それだけでワクワクしました。そういった新しい切り口の演出を考えられる人は、この先強いと思います。
×ただ、肝心のコンテンツが在り来たりすぎでした。古今東西で使い古されたネタの寄せ集めだったと言わざるを得ません。
×この手の、音声を流すタイプのネタは、大抵の場合、熱量が足りないことが盛り上がらない要因になっていると思っています。台本棒読みの音声を流すだけって白けてしまうし、技術的な感動がないって結構大きいんですよねぇ。
お見送り芸人しんいち
○方向性としては「イキってるやつが痛い目見てザマァ」のあるあるという、他にいくらでもある芸風ながら、シンプルにネタの質が高かったと感じました。
○「誰も傷つけない笑い」とやらがかなり浸透してきた昨今ですが、この芸風は完全に人の悪口。それを「好き」というオブラートに包むことで偽装している点が、実に時代を皮肉りながらも適合したやり方になっていたと思います。
○素晴らしかったのは、苛烈な悪口にならない程度に加減が効いていたこと。ちくりと刺すくらいのシニカルであることが、聞き手側に「悪口で笑うこと」の罪悪感を感じさせない、絶妙な匙加減でした。
×一部、早口で聞き取りづらい箇所があったのは微妙。集中して聞き取らないといけないところは笑いの量が減りますからねぇ。
・「テレビの前で点数漬けてる視聴者」→はい、私の事です。サーセン笑
Yes!アキト
○ハイテンポでネタを繰り出して間を作らないところは、流石プロだなぁと。
○てんでバラバラにネタを繋いでいるようで、全体のリズムはしっかりと整っていたところが、彼の支持を生み出す要因になっているように思いました。
×残念だったのは、唯のネタの羅列だったこと。このご時世、コンセプトのない、芯の通っていないものは賞レースで評価される事はないように思います。霜降り明星・粗品がABCとほぼ同じネタで優勝できたのも、「夢で見た内容」というコンセプトを冒頭に提示したからと言われていますからねぇ。
×そしてシンプルに、ギャグ自体があまり笑えませんでした。こういう無秩序タイプのギャグって、なんでこれが面白いのか?を考え始めると全然笑えなくなってしまうんですよねぇ。個人の感想ですが。
○けど、ネタ後に披露したギャグ「お口ミッフィーちゃん、からのるろうに剣心」「ぴえんすぎてTHE END」はメッチャ笑いました。不思議。人間が笑うって、本当にどういうメカニズムなのでしょう。
吉住
×見てて普通に引くくらいヤベー人を演じることって、面白いんですかね・・・?私は演技と分かっていてもぶりっ子には苛々したし、SNSでキレ散らかしてる人って実際こういう感じなのかな、と思うと、全く笑えませんでした。エンタメってなんだろう。
○本編のほとんどを占めるキャラクターコントとは裏腹に、オチとなった「YouTubeの収益でアフリカに学校を建てる」「向こうは一夫多妻制らしい」というストーリーは、意外性もあり皮肉も効いていて、実に上手いシナリオを考えたなと思いました。キャラ描写とストーリー性の比率が逆くらいのものの方が見てみたかったな。
サツマガワRPG
○まず「そっか、大会近いもんな」をキラーフレーズにネタを作ろうという発想が凄い。何故これで台本を作れると思ったのか。そして実際作れたのか。
○最初は私の嫌いな、唯フレーズがしつこい系のネタかと辟易しながら見ていましたが、「大会近いもんな、って10回言って」の瞬間から引き込まれました。自分が同じフレーズ連呼してる自覚があるんかい、というツッコミを頭に浮かばせられたからです。普通にストーリーが進行する上では決して出てこないはずのメタ視点からの切り口に意表を突かれ、そこからはどんな展開が訪れるのかという期待に溢れた視点に変わりました。非常にセンスのあるフレーズだったと思います。
×残念至極だったのは、↑で心を掴まれた後に、大きな波が来なかったこと。特に、最後のオチが綺麗にまとまっていたことは、ドラマだったら後味良く終わったのでしょうが・・・もっと最後に爪を立ててきて良かったんじゃないかなと。
○今大会で一番センスのあるネタだったように思います。もう少し練り込まれていれば、もう一つ二つ展開・意表性があれば、優勝も全然有り得たと思うだけに、実に勿体ないなと感じました。
ZAZY
×過去にR-1で披露した内容と同じテンプレートに乗ってしまっていたところが・・・ネタの在り方として、初見は誰もが面白いと感じられそうなものの、2回目以降は著しく評価が辛くなる、険しいスタイルだと思います。
×「ファイト」を歌うところで、バックのビートボックスと歌がマッチしていないところが残念ポイントでした。お笑いとして音楽を扱う際の大前提として「耳障りが良い事」があると思いますが、そういう意味でアウトだったと思います。
×何より違和感があったのは、歌詞が間違っていた事です。(最初に「冷たい水の中を~」がきていましたが、正しくは「戦う君の歌を~」が先です。)単純に間違えたのか?こだわりがないのか?いずれにせよ、聞き手に違和感と消化不良を与える、歌ネタとしては致命的なミスだったと思います。
寺田寛明
×今大会で最も素人臭い、未完成すぎるコンテンツでした。ネタの良し悪しに関わらず、こういうエンタメの基本が出来ていない人を決勝に残してはいかんと思いますよ・・・
×紹介VTRで「文字へのこだわり」とか言ってましたが、こだわりがあるようには全く思えませんでした。文字が地味で小さく読みづらい時点でエンタメ失格だと思いますし、文字としてそこに在る意味が全く感じられませんでした。
×フリップの文字をそのまま読むだけという点も非常にお寒かったですねぇ。新社会人の低レベルなプレゼンのようでした。
×中身の程度も低かったです。「批判コメント」が唯のTwitterのクソリプそのもの。視聴者がこれに共感すると思っていたのなら、なんとも嘗められたものですねぇ。
・ザコシショウが「もっと人間力を」的なコメントをしていましたが、正にそれだったのではないでしょうか。人間として、お客さんを楽しませることに全力を尽くしていたようには思えませんでした。ベクトルが自分を向いている感じが、なんとも「素人」という感じでした。
・個人的には、こういう発送をする人、こういう正当派なネタで上がってくる人は大好きなので、ちょっと直すだけで良くなるネタを見せられると、とても悔しい気持ちになります。誰かネタをレビューしてやる先輩とかおらんのか、MASEKIぇ・・・
金の国 渡部おにぎり
○明転の瞬間から面白かったです。最速のツカミでしたね。鳥に吊られる演技とか、初めて見ました笑。
○地味な上に当たり前なところかもしれませんが、音楽がかかったときの表情の演技が上手いなーと思いました。
×初速が瞬間最大風速だった点は残念。シュールなのかドラマなのか、何に笑って欲しいのかよくわからない、中途半端な台本だと感じました。
○お見送り芸人しんいちがディスったAquaTimezをBGMに使ってくる、奇跡のシンクロはめっちゃ笑いました。その後のトークを見て感じましたが、この方の人となりの良さが、何かを引き寄せる力を持っているんじゃないですかね。
8名のネタが終了したところで、「お見送り芸人しんいち」「吉住」「渡部おにぎり」の3名が463点で並んでフィニッシュした事から、決勝進出の一枠を賭けて、審査員の決選投票へ。
ザコシ | 野田 | 小籔 | バカリ | 陣内 |
しんいち | しんいち | 吉住 | 吉住 | しんいち |
見事、3票獲得のお見送り芸人しんいちが、1位通過のZAZYと共に、ファイナル進出となりました。
ファイナル
お見送り芸人しんいち
○相変わらず全く応援する気がない、優しさの皮を被ったシニカルがサイコーでした。
・良くも悪くも、1本目と全く同じ感じ。安定感があるというか、バリエーションがないというか。けど、不快にならない絶妙な線のシニカルを2本続けられたのは、やはりセンスがいいんでしょうね。
○強いて言うなら、2本目の方がより実話っぽいというか、リアリティがありました。「もしかして、このネタに出てくる固有名詞とかエピソードって、全部実話?」というのに気づいたのは、この2本目の途中だったように思います。
ZAZY
○こちらも全く同じリズムネタ、と見せかけて、途中でボケとツッコミのフレーズを織り交ぜる新たな展開が良かったです。
×最後のビートボックスがやはり合ってない・・・何故わざわざやるのか。
そして、決選投票の結果、優勝は「お見送り芸人しんいち」となったのでした。
ザコシ | 野田 | 小籔 | バカリ | 陣内 |
しんいち | しんいち | ZAZY | しんいち | ZAZY |
1本目のネタでの点数を比べてみると、一貫してZAZYを支持したのは小籔だけなんですねぇ。
逆に、一貫してしんいちを支持したのはバカリズムだけ。あとの3人は評価を覆して逆に投票したことになります。
ネタのクオリティはどちらも、1本目と大きく差はなかったように思いましたが、3名の審査員の目に映る姿にどのような変化があったのか、今後語られる機会があったら是非聞いてみたいですね。
ザコシ | 野田 | 小籔 | バカリ | 陣内 | |
しんいち | 93 | 95 | 94 | 89 | 92 |
ZAZY | 95 | 96 | 98 | 86 | 89 |
ファイナル | しんいち | しんいち | ZAZY | しんいち | ZAZY |
総評
というわけで、優勝は「お見送り芸人しんいち」でした。
個人的には、最もクオリティの高いネタが順当に優勝したな、という納得感のある結果だったように思います。
R-1で歌ネタといえば嘗て、AMEMIYAが「冷やし中華始めました」で準優勝した事が思い浮かびますが、今回はそれを上回り優勝という結果に。
面白いのは、しんいちの場合「翌年解散したAquaTimez」「ピストルクラブの解散ツイート」など、ネタの内容は結構覚えているにも関わらず、メロディーは全く印象に残っていないことです。AMEMIYAは対象的に、「冷やし中華始めました」以外を覚えていないタイプのネタでした。つまりは、同じギター弾き語りでありながら、スタイルとしては真逆だったと言えます。
AMEMIYAの場合、その後も一定期間歌が評価されましたが、飽きられるのも比較的早かったように思います。しんいちが今後、お笑い界の荒波をどのように乗りこなすのか、楽しみです。
大会の総評としては、M-1が「ニュースタイル」を推してきたのに対し、かなり古典的で無難なスタイルのネタを集めたなと感じました。
個人的な邪推ですが、昨年から放送局が変わった事、そして昨年は運用手際が悪くネットでボロカスに叩かれた事から、「失敗は許されない、なんとか無難にやりきりたい」という思惑があったのかなと思ったり。(今年はミスのない進行で、そういう意味では昨年から大幅改善が見られました。最後の最後に時間切れで音声が切れたのが惜しかったですが笑)
それに関連して、露骨に放送内容がM-1に寄せられたのも印象的でした。
これまで、R-1はM-1との差別化を目指して、本編出場者の人数、演目順序、審査員など悉く、「敢えてM-1と違う事をする」ことが基本方針としてあったように思います。
それが今回、ほとんどM-1の縮小コピーのような構成・演出になっていたのは少し驚きでした。(私が知らないだけで昨年からそうだったのかもしれませんが)
それによって締まるところは締まったし、特段悪い事でもないのですが。
しかしそうなると気になってくるのが、やはり爆発力がM-1に及ばないこと。爆笑、驚き、斬新さ、感動、どれをとってもM-1のミニスケール版という感じで、新しい発見のない無難な出来になってしまったかなと。
前述したように、「まずは無難にやりきりたい」という思いがあったのなら、来年から攻めの姿勢に転じることを期待したいところです。
そしてM-1同様、「審査員の点が団子になりすぎ問題」が、より顕著に現れた大会でもありました。
そもそも何故みんな同じような点数になってしまうのか?を考えたとき、要因としては2つあると思っています。
例えば、仮に6人が90~100点の範囲で点数を付けるとき、トップと最下位の最大差は60点になります。しかし7人目が0点または100点で点を付けると、6人の60点差を覆す事が可能です。つまり、「デカい声」が他の審査員の意見を打ち消すことができてしまうのです。
終わりに
ということで、R-1グランプリ2022の感想でした。
色々書きはしましたが、とても楽しかったです。2時間があっという間に過ぎていったなと言う充実した感覚がありました。
実は2010年代頃から、R-1はどうもクオリティが低くて面白くないなと感じる年が続いていたのですが、ここ数年は面白い大会に戻ってきた感がありますね。
願わくば次回は、もっと尖った、もっと誰も見た事がないような斬新な感性が、番組の攻めの姿勢の下に爆発すると良いなと思います。
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