映画「真夏の方程式」を数式っぽく読み解いてみたよ

映画評
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映画ガリレオシリーズ9年ぶりの新作「沈黙のパレード」が2022年公開、というニュースがありました。

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私的に、ごく最近見た「容疑者Xの献身」が大変面白かったので、新作も大いに期待しているところであります。

映画「容疑者Xの献身」はミステリというより失恋の物語だよね、という逆張り考察
amazon PrimeVideoで、余りにも今更ですが、2008年公開の「容疑者Xの献身」を観ました。 この原作小説は当時、「本格ミステリか否か」の論争があったそうですね。そして議論の果て、結局現在は「本格ミステリで...

 

また今回、それの予習として、映画の2作目である「真夏の方程式」をamazon PrimeVideoで視聴しました。これもなかなかに面白かったです。

来年の新作を観る際に思い出せるよう、感想を書き留めたいと思います。

以下には、鑑賞済みを前提に、ストーリーの根幹に関わるネタバレを含みますので、ご注意ください。
(※私は原作小説は未読です。以降は全て、映画版視聴のみでの状態での記載となります。)

尤も個人的には、寧ろ一度考察等を読んでからの方が楽しめる作品ではないかな、と思ったりしますが。

あらすじ・概要

美しき海の町で、真夏の夜に起きた不可解な事件ーそれは事故か、殺人か。
複雑に絡み合う因縁。重ねられた嘘と罪。そして、深まりゆく「謎」…。
ガリレオ湯川は、その哀しき方程式を解き明かす事ができるのか。

日本中を深い感動で包んだ大ヒット作『容疑者xの献身』に続く、劇場版ガリレオ第2弾!
福山雅治=湯川学が映画で挑むのは、東野圭吾シリーズ史上最もせつない「謎」の方程式。
ガリレオが再び日本を席巻中!2013年度放送の連続ドラマで視聴率第一位!
主演・福山雅治×豪華スタッフ・共演陣=この夏最大の感動大作!

(東宝によるあらすじより引用)

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↓超ざっくりネタバレあらすじ

ガリレオ先生、田舎の港町で少年に出会う。

・宿泊先の宿で殺人事件が発生。
宿泊客として訪れていた刑事が、近くの岩場で変死体で発見される。

・死因は一酸化炭素中毒。窓を閉め切った部屋にいるときにボイラーが故障したためとみられる。
宿屋の主人と女将が風評被害を恐れ、死体を遺棄したと自供

・ガリレオ先生と少年、事件はさておき、ペットボトルロケットできゃっきゃと遊ぶ。

・警察の現場検証が進むが、部屋を密閉しても、一酸化炭素が溜まる現象を再現できない?

・ガリレオ先生、ひらめく。「これは宿屋の主人による計画殺人だ!」
煙突をダンボールで塞ぐことで、真の密室を生み出していたのだ。
そしてそれは、宿屋の主人が少年を唆してやらせていた

・宿屋の主人が自供。
は昔、殺人をやらかしていた。その時の刑事が来たので、バレたら不味いと思って殺った。」

・そして娘の出生の秘密も明らかに。
娘は、宿屋の女将が、主人と結婚する前に身籠った子だった。
実の父親は、娘がやらかした殺人を隠蔽するため、偽の証拠を揃え、自ら刑務所へ入っていた。
その実の父親を逮捕したのが、殺された刑事だったのだ。

・「少年はいつか自分のさせられたことに気づくだろう。
その時は、宿屋の主人は何故彼にそうさせたのか、その理由を考えさせてやってくれ」

ミステリとしての評価

まずミステリとしての評価ですが、これは「ミステリではない」と言うのが正しい気がします。
というのも、題材は確かにミステリらしく様々な謎があるのですが、演出からして「解かせる」気がさらさら感じられないためです。

この作品をミステリとして考えた時、その背骨(ホワイ・ダニット)は、

「一酸化炭素中毒を発生させる密室は、どのように作られたのか?」

という点になるでしょう。
具体的に言うと、

(1) 刑事は密室の中で、一酸化炭素中毒で死亡した
(2) 人を殺せる真の密室を作るためには、窓を閉めるだけではなく、煙突を塞ぐ必要がある
(3) しかし真犯人である宿屋の主人は足が悪く、煙突に登れない
(4) そこで、まさかの少年に片棒を担がせることで、それを解決する
(5) こうすることで事故死(と死体遺棄)に見せかけ、殺人罪を逃れる、という計画

という点こそが、不可能が可能に変わるポイントであり、視聴者の心理的盲点を突いた鮮やかなトリック、ということになるはずです。

しかし映画では、この問題提示・解決に至るまでの描写がほとんどないのです。
捜査は、教授と少年がペットボトルロケットを飛ばしている間にいつの間にか進み唐突に一言さらりと「一酸化炭素が溜まる状況を再現できない」と言われたかと思えば、煙突を塞ぐ必要があること・宿屋の主人では登れないことが、解決編に突入してから怒涛の如く明かされてくるのです。
要するに、問題編において、視聴者には(1)しか提示されないのです。
それが果たしてミステリと呼べるのか、という話です。

寧ろ、作中でメインストーリーとしてスポットが当たられていたのは、「16年前の殺人の真犯人は誰だったのか」という点でした。これは、ミステリではなくサスペンスの領域だと思います。視聴者には推理のしようがないのですから。
それさえも、オープニングの思わせぶりな少女の映像、存在意義のなさすぎる成実(杏)を見れば、「絶対犯人こいつやん・・・」と分かってしまうのですが。

いずれにせよ、「これはミステリではない」というのが私の感想です。

「真夏の方程式」の意味

フー・ダニットやハウ・ダニットを解かせることが主たる目的ではないとしたら、
ではこの映画は、何のための物語だったのでしょうか。
私は、そのタイトルにある通り、「方程式」を解かせることこそを核にしている作品である、と感じました。

そもそも「方程式」の意味を調べると、

1 未知数を含み、その未知数が特定の値をとるときだけに成立する等式。この特定の値を解または根という。
2 (比喩的に)問題を解決するための方法。解答を得るための決まったやり方。「先行逃げ切りが勝利の方程式」「不動産投資、成功の方程式」

とあります。
この作品においては、2の「決まったやり方」を意味するのであろうことは想像に難くないでしょう。

方程式(ほうていしき)とは? 意味・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書
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では「決まったやり方」とは何でしょうか?
私はこれを、構造的に繰り返される「排除行動」であると考えました。

具体的には、この作品では、各登場人物の下記の様な行動が見られます。

・成実(杏)は、最新の資源調査方法が海に与える影響ついて、知ろうとしない
⇔資源開発が進められる
→海を守りたいという思いが反発し、開発チームを排除する運動が行われる
・宿屋の夫婦は、刑事がどのような人間で何を思っているのか、知ろうとしない
⇔刑事が宿までやってきた(15年前の事件について嗅ぎまわっている?)
→娘を守りたいという思いが暴走し、刑事を殺してしまう
・少年は、科学について学ぼうとしない
⇔宿屋の主人による計画殺人が密かに進行する
→言われるがままに煙突をダンボールで塞ぐことで、殺人の片棒を担がされてしまう

これらを数式っぽく抽象化すると、

(人物 + 無知・無関心)× 未知の接近 × 行動原理 → 不都合なものの排除 = 悲劇

という構造が見て取れます。
或いは、もっとシンプルに、こうしてもいいかもしれません。

(人物 + 秘密) × 何かを守ろうとする → 不都合なものの排除 = 悲劇

これがタイトルの「方程式」の示唆するものではないか、と思うのです。

作中で、「全てを知った上で、自分の進むべき道を決めるために」という決めフレーズがありますが、これは「方程式を解いて前に進むためには、知らなければならない。だから隠すな、知ろうとする態度を崩すな。」という意味合いに感じられます。
即ち、無知や秘密をそのままにしようとするといい結果をもたらさないぞ、というテーマなのかと。

そう思うと、ガリレオ先生とは「知ろうとしない」態度とは象徴的に真逆にある存在、と言えます。何しろ教授ですから。
これは彼が、「方程式を壊していく存在」、つまり悲劇の連鎖を断ち切る立場にいることの暗喩に繋がるのではないかと考えられます。

 

このように、「幾重にも重なった悲劇の連鎖の構造を見つけ出し、解決方法を考えること」が作品のテーマなのではないかと思います。
そう思うと、なおさらミステリというカテゴリには収まりませんね。もはや一種の哲学、或いは思考実験の様にさえ感じます。
それくらい深いテーマを感じさせる、ヘビーな作品でした。

(えっ、「真夏」はどこから来たのかって?夏の海が舞台だったからじゃないですか?)

総評

まとめますと、「これはミステリではなく、無知であることへの警鐘をテーマとした哲学的な作品である」と言えるかと思います。
それもあって、娯楽作品として見るにはなかなか重たい作品でした。
途中、楽しい科学実験・ペットボトルロケットのシーンがやたら長かったのは、それとのバランスなのかと思います。

「重たい作品」と思ってしまう理由は他にもありまして、
なんといっても登場人物のほとんどが「あたおか」過ぎるんですよねぇ・・・

・他人様の家に上がり込んで、そこの娘に毒づきまくった挙句、窃盗して帰る女
・写真を取り戻すために包丁を持って追っかけていき、問答無用で刺し殺す女子高生
・娘の罪を隠蔽するために刑期15年を甘んじて受けるという、究極の甘やかし
少年を殺人の実行犯にさせる叔父

誰にも共感できないという状況は、果たしてどうだったのか。その点は、まだ心情的には共感できた「容疑者Xの献身」とは異なる点でした。
特に、最後のやつは絶対アカンでしょう・・・子供に影を背負わす作品は幸せになれませんよ 。゚(゚´Д`゚)゜。

終わりに

ということで、映画「真夏の方程式」の考察というか感想でした。

東野圭吾の作品は、ヘビーなものが多いんだな・・・と改めて感じました。
小説では「手紙」なんて、読んだあと暫く落ち込むくらいでしたし、「容疑者Xの献身」も悲しいお話でしたしねぇ。
けどとても面白かったです。来年公開の「沈黙のパレード」も楽しみに待ちたいと思います。

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