M-1グランプリ2020決勝・ファイナルの感想

お笑い評
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今年のM-1は空前絶後、まさかまさかの、意外な結果に終わりました・・・
この激動の4時間をを、後に思い出して震えられるよう、書き残したいと思います。

インディアンス 「昔は悪かった」

一組目が敗者復活になり、番組開始から1時間が経ってもネタが始まらないという、
正に前代未聞、激動を予感させる幕開けとなった今大会。
インディアンスは敗者復活から見ていたので応援したかったが、いきなりのトップバッターとは不運としか言い様がない。
空気ができあがってたら、もっと爆発力が活かされたと思うのだが・・・
復活戦ではアドリブか?と思ったところが本選でも忠実に再現されていて、
あぁ、台本通りだったのかと意外に感じた。そんな技術力も発揮していただけに残念。
ある意味、最速で起爆剤を投下され、大会全体の空気に貢献する尊い犠牲だったと思う。
番組的成功に貢献したという点では、今大会のMVPをあげてもよいと思った。

東京ホテイソン 「謎解き」

普段から謎解きが好きだからだろうか?内容が浅く工夫のないネタに思えてしまった。
いくらツッコミが特徴のコンビとはいえ、言葉の語尾を取るだけというボケはあまりに一辺倒。
しかし、オール巨人は「頭を使わせない方がよかった」と言う。そこで気づいた。
謎解きを題材にすると、食いつけるレベルが上下に広すぎて、聞き手の層を広くターゲティングすることが難しいのだろう
そう思うと、お笑いとはなんと難しいものか。
そして老若男女問わず爆笑を生み出す漫才師とは、本当にとんでもない。

ニューヨーク 「軽犯罪エピソード」

ニューヨーク【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順3〉M-1グランプリ2020

最終的には5位だったが、そんなに悪い出来ではなかったと思う。
少なくとも私には、昨年の歌ネタより遥かに面白かったと思えた。
誰もが「それくらいなら」と見逃している軽犯罪という題材選びが素晴らしい。
インパクトだけを見れば、この日一番のキャッチーなテーマだったのではないだろうか。
終盤に軽犯罪と善い活動が交錯するところは、構成としても大変秀逸だった。
ただ、ネタが甘かったのも事実。軽犯罪縛りで通すべきだった。特に犬のう○こは完全に失敗。
その失点がなければ、ファイナルに残ってもおかしくなかった。
また、出順がだいぶ悪い方に影響した感は否めない。嗚呼、勿体なすぎる。

見取り図 「マネージャー」

見取り図【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順4〉M-1グランプリ2020

ネタの構成が緻密で、長髪(笑)のツッコミも冴え渡わたり、とてもレベルが高く面白かった
一度、壊滅的に噛んだにも関わらず立て直したしたハートの強さも素晴らしい。
残念だったのは、マネージャーという題材をあまりストーリーに活かしてなく、
どちらかと言うとひとつひとつのボケを散発しているような印象だったこと。
それが悪いというわけではないのだが、技術が発想を上回ってしまっていると言うか。
文句のつけようのないくらい面白いのに、優勝させるには圧倒性がないと言うか。惜しかった。

おいでやすこが 「カラオケで盛り上がらない」

おいでやすこが【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順5〉M-1グランプリ2020

普通の漫才コンビではなくピン芸人同士という成り立ちがそうさせるのか、
ドシンプル・ド直球で潔すぎるツッコミ賞レースでは忌避される歌ネタと、
誰もやらないところを攻める、というスタンスが最高に嵌まったと思う。
R-1から弾かれたというドキュメンタリー性もあり、正直、これは優勝したなと思った

オール巨人曰く、彼らは「でかい声出してるだけ」とのこと。
しかし、粗品に代表されるように、インテリジェンスなツッコミが人気の昨今だが、
その真逆の方向性で爆笑を攫っていくのは、本当に技術ではないのだろうか。
また、メロディーの一節から別の曲を展開するというネタも、相当技術とセンスが必要だと思う。
正に1+1が無限大になったと言える、素晴らしい化学反応だったのではないだろうか。

毎年恒例になりつつある、「優勝した奴より売れる枠」を掴みそうだ。
2021年、彼らは出てくると思う。(果たしてどれだけ保つかはわからないが・・・)

マヂカルラブリー 「高級フレンチでのマナー」

マヂカルラブリー【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順6〉M-1グランプリ2020

過去に 博多大吉が審査員を務めたとき、評価の基準として「ツカミの早さ」を挙げていたが、
せり上がりと共に武士座りで現れるというのは、過去最速のツカミだったのではないだろうか。

内容はと言えば、本当にくだらない。
オール巨人が言ってたように、マナーを題材にしてハチャメチャするという題材は使い古されてる。
フレンチ/俺んちとか、オチが本当にプロかよってくらいにくだらない
けど、滅茶苦茶面白い。窓を割ってレストランに飛び込むシーンは、その情景が鮮明に浮かび上がってくる素晴らしいパントマイムだったし、松本人志の言うとおり、この日の瞬間最大風速だったと思う。

何故、こんなハチャメチャが爆笑を攫うことができたのだろうか。
私が思うに、マヂカルラブリーの漫才は滅茶苦茶なようで、
何処で笑えばいいのかを非常に分かり易しく示している点が、最強の技術だったと思う。

例えば、序盤の「静かに」というルール説明をすることで、野田のアクションがそのルールに則っていない=笑うところなのだ、と教えてくれている。
「違うところがあったら言う」と振ることで、アクション中にずっと「違うよ!」を連呼し、ずっと笑っていていいのだと誘導してくれている。
また、「食器を斜めに置いたら終わり」のルールのもと、そこでネタが一区切り落ちたことを示してくれる。
日常の会話を思い浮かべると分かると思うが、笑っていいところかどうかを判断するのは、実はなかなか難しい。笑うところと思った話で引かれるというのはそういうすれ違いだ。
マヂカルラブリーは、その無言の説明が非常に上手かった
つまり、紛れもなく漫才のスキルの勝利だと思う。

オズワルド 「名前が全部母音」

昨年の印象がなさすぎて、全く期待していなかったコンビ。
口に何かを入れられるという心配も、正直、意味不明
勝ち残れなかったのは順当と言わざるをえまい。

けれどツッコミのタイミングなのか、言葉の妙なのか、なかなか聞き入らされた。
松本人志とオール巨人の意見が真っ二つに割れたことからわかるように、
静かな笑いの漫才は評価が分かれるが故に、賞レースでは不利だと思う。
それにも関わらず決勝まで残り、ウケているのだから、そこは素直に凄い。

昨年は本当に、ミルクボーイに飲まれただけだったのかもしれない。もう一回見直してみよう。

アキナ 「好きな子が楽屋に来る」

センスが20年前。もう「モテたくてイきる」というだけでウけるほど単純な時代では無いと思う。
会場の笑いも明らかに少なかった。M-1の会場に足を運ぶようなお笑いファンにとっては、使い古された内容ということなのだろう。
アキナは過去にも決勝進出の経験があるが、何も進歩を見せれないという残念な結果だったと言える。

錦鯉 「パチンコ CRまさのり」

20年前どころか、江戸時代の芸風
ここまでのレベルが高くて会場が暖まっていたお陰でそこそこ形になったのであって、
例えばトップバッターだったらド滑りしたと思う。つまりは実力が決勝の舞台に見合っていない。
ギャグがスベることを前提にしたネタも卑屈で卑怯
トムブラウンのような、所謂飛び道具的な枠を常駐させるのは良くないと思う。

ウエストランド 「ギャップ」

残念ながらこの日最低の出来
「誰も傷つけない笑い」が一世を風靡した2020年、それにただ噛みついただけ。
されどそれに対するアンチテーゼを示す事もなく、唯々自虐と他人の攻撃に終始、
つまりは、時流に逆張りしただけの負け犬の漫才。
ファイナルラウンドを前に会場を盛り下げたと言っても過言ではない。
敗者復活戦の中でも真ん中より上には来るまい。準決勝以前で落としてやるべきだったと思う

~ファイナル~

見取り図 「地元を大事に」

見取り図【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順1〉M-1グランプリ2020

一番スタンダードでこれぞ見取り図というべき、最も自信のあるネタのチョイスなのだろう。
が、逆に言えばそれは、過去2回M-1で勝てなかったネタと同じ。
何度も爆笑をとっていたし、実際とてつもなく面白かったのだが、
敢えて優勝者として選ぶには、何か足りないような感があった。

一つ一つのボケが、或いはツッコミが、テーマに沿っていないので、
後から思い返したとき、「なんのネタやったんだっけ?」となってしまう。
部分的に思い出せても、例えば「モハメド・アリって、なんのネタだったんだっけ?」となるのだ。
これは、2019年で言えばミルクボーイの「コーンフレーク」とは真逆の関係にあり、
賞レースにおいてはかなりのデメリットであると思う。
別にテーマに沿っていなければいけないわけではないが、沿っていた方がいいと、私は思う
構成に気を使っていることが明白である見取り図であるからこそ、是非やるべきと思うのだが。

三組の中で、漫才のスタイルとしては最も古典的で王道、なので一番評価する人も多いであろうし、
事実、2人の審査員が票を入れたのは、これぞ漫才と認めてのことなのだろう。
今年はマヂカルラブリーといい、おいでやすこがといい、完全に流れが「異種」に傾いていた。
もはやこれは時の運。
見取り図のような正統派が評価される揺り戻しは必ず来ると思う。

マヂカルラブリー 「電車で吊革に掴まりたくない」

マヂカルラブリー【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順2〉M-1グランプリ2020

一本目も尖ったネタだったが、二本目はさらに尖りまくっていた。
野田クリスタルがほぼ喋らず、8割の時間を床を転げ回るという怪作。
正直、良くも悪くも、賞レースにおいてこれが勝つとは思わなかった・・・
が、滅茶苦茶笑えたのは確かな事実。これはもう才能としか言い様がない。

大会後に、このネタが「漫才かどうか」がTwitter上で論争になったようだが、
否定派の人たちは、漫才の定義とかはおそらくどうでもよくて、
意味の分からないものを認めたくない」「自分の勝手知ったる枠を壊させたくない」という心理なのではないかと思う。
それくらい、野田クリスタルの動きは革命的で破壊的だ。それこそが、天才の証なのではないだろうか。
漫才の枠を飛び越えた彼らは、今後お笑いの枠に捕らわれないデカい成功をするのではないか、と期待してしまう。

おいでやすこが 「ハッピーバースデーの歌」

おいでやすこが【決勝ネタ】最終決戦〈ネタ順3〉M-1グランプリ2020

面白いかどうかで言えば、間違いなく面白いのだが、
敗因は、一本目に評価された点を活かしたネタではなかったこと、
言うなれば、自分達の面白さに無自覚で、一本目とネタの方向性が定まっていなかった事だと思う。一本目はツッコミが際立ったからこその爆発だったのに、終始歌が途切れず主役の座を張っており、「ツッコミの強さ」が演出されなかったと思う。
そして、単純に歌が長すぎてダレた
シチュエーションからして優勝しても全くおかしくなかっただけに、自滅の感が否めず、
勿体無い・・・と思わざるを得なかった。

総評

面子が発表された当時は、今年は盛り上がりに欠ける出来になるのではないか心配していた。
というのは、優勝候補に挙げられる見取り図やニューヨークをはじめ、マヂカルラブリー、アキナなどの主要な面子は「過去に勝てなかった者達」にすぎず、顔ぶれに新鮮味がなかったためだ。
おいでやすこがは新顔だが色物臭がするし、錦鯉はシニアすぎて時代に合うとは思えない。
ましてや会場はソーシャルディスタンス確保のため空席が多く、笑いのボリュームは例年よりも小さくなることが予想された。
正直、低い温度感でダラダラと盛り上がらない大会になる可能性はかなり高いと思っていた。

しかし蓋を開けてみれば、敗者復活を勝ち上がったインディアンスが良い流れを作り
後の組はいい温度で、会場の笑いも絶えずにいい空気を維持していた。
そしてマヂカルラブリーは常識を覆す芸風で、大爆発した。
終わってみれば笑いの量では昨年に劣らない、非常にハイレベルでいい戦いになったと思う。

特にマヂカルラブリーは、3年前に大御所に否定されての最下位となり、立ち直れないほどのダメージを負ったはずなのに、それを逆に利用しネタの掴みに使うことで追い風に変え、見事リベンジを果たした。その姿には感動すら覚えるほどの衝撃だった。
優勝の瞬間から、あの野田クリスタルが涙し、一つもボケなくなった姿にはジーンとした。
ふざけているようで、如何に彼らが真摯に漫才に取り組んできたのかを垣間見た気がする。
(最後の最後に「えみちゃんやめないでー」と叫んだのは流石だったが)

ナイツ塙はその著書で、「M-1は古典の大会」と評していた。
実際、近年はミルクボーイ、霜降り明星と、王道の漫才が評価されてきた中、
ファイナルの場に王道を継承した見取り図が残っているにもかかわらず、
それに真っ向から対立するスタイルのマヂカルラブリーが王者を攫っていったことは、
漫才史上でも相当にエポックメイキングな出来事だと思う。

世の中の在り方が大きく変わった2020年、鬱屈した時代に最も評価されたのが、漫才の王道ではなく、「喜劇」という原始的なパワーだったというのは、素直に驚き感心させられ、そして実に納得した。

さて、来年はまた新たな破壊者が現れるのか、それとも王道が復権するのか。
演芸の世界は更に荒れそうである。
コロナで荒れるのは勘弁いただきたいが、エンターテイメントにおける波乱は、大歓迎したい。

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